コラムピックアップ社会鵜飼秀徳

意外に墓参りする若者たち ~墓じまい急増の日本社会で

 宗教に比較的無関心といわれる若年層だが、大学生を対象にした「墓参り」アンケートでは意外な結果が出た。祖父母・親世代が「墓は不要」とする傾向が強いのに対し、子供・孫世代は「墓じまいはやめて」と考えているのだ。状況が落ち着いたら、「死生」を学べる絶好の機会である墓参りでもいかがでしょうか。

 本年度の大学の授業開始は、新型コロナウイルスの感染拡大で大幅に後ろ倒しになっている。

 私は東京農業大学で週に1度、死生学の授業を受け持っている。日本の風土に根ざした仏教や神道の歴史、習俗などの宗教的題材を学生に提供しながら、最終的には「生きるとは何か」「死ぬこととは」について、深く思考することが学習の目的である。

 授業の中で、しばしばアンケートを実施している。2018年と19年、1年生を対象に「墓参り」についての意識調査(有効回答数610人)を実施。とても興味深い結果が出たので、ここで少し紹介したい。

 まず、「墓参りの頻度」について聞いた。だいたい1年に1度行くという回答が最も多く32%を占めた。「年に2回以上」は46%。うち3%はひと月に1度のペースで行くという。

 一方で、「2年以上墓参りをしたことがない」、あるいは「行かない」は20%であった。

 「墓は必要だと思うか」の質問にたいしては、「絶対必要」「まあ必要」「どちらかといえば必要」の肯定派が81%を占め、否定派は9%にすぎなかった。

 より詳細に尋ねてみた。

 「あなたはどんな墓に埋葬されたいか」に関しては、「親や祖父母と一緒の墓に入りたい」(58%)がトップで、「自分だけの墓に入りたい」(13%)「海での散骨」(9%)「山への散骨」(5%)「墓は必要ない」(2%)を凌駕する結果となった。

 さらに「あなたは一族のお墓を守っていくか」については、「守っていく」(61%)「祖父母の墓までは守る」(17%)「親の代まで守る」(14%)。先祖供養にたいする意識も高かった。

 授業を受けているのは、科学万能・即物主義社会に育った現代っ子である。また、墓参りよりも優先したいことが山ほどある年頃だ。若者は墓参りしないイメージをもっていたが、それはとんだ誤解だったようだ。

「継承しなくていい」

 一方で、葬祭会社ヤシロ(大阪府箕面市)が、関西在住の中高年(40〜79歳)約2万5千人を対象に実施したアンケートでは、「子供にお墓を継承させたいか」という問いに対し、「継承させるつもり」(17%)が「継承させないつもり」(25%)を下回っていた。子供・孫世代は「墓を守りたい」と思っているのに、その親以上の世代は「継承しなくていい」と考えているのだ。

 核家族化や長寿化社会になって、とかく、「家族に迷惑をかけたくない」として、墓じまいが増えている。

 厚生労働省の衛生行政報告例では、最新の2018年度集計で「改葬」件数は11万5384件。2000年代後半はだいたい7万2千〜3千件で推移しており、近年、墓じまいが急増していることが分かる。

 これは葬送の担い手(主に団塊世代)の、死後にたいする意識の変化が読み取れる。実際に墓守りができない物理的な理由もあろうが、老後マネーへの心配や、あるいは将来的な「負担」を子供や孫に背負わせたくないとの、「忖度」もそこにはあるだろう。

 核家族化で「祖父母―親―子供―孫」のコミュニティーがバラバラになり、「死後についての話し合い」がきちんとできていないことも、世代間の食い違いを生じさせている要因だ。

心の安寧

 今回の大学でのアンケート対象者は「葬送の現実」を知らない若者たちである。純粋に「きちんと死後を弔いたい」という想いが、強く表われているように感じた。

 だからこそ、若い世代に対して「供養の大切さ」をしっかりと伝えていく必要があるだろう。

 残念ながら、日本においては公的な教育現場では「死についての授業」はほとんどなされていない。

 死を学べる機会は、葬式の場くらいなものだが、それも都会では家族葬や直葬といった「閉じられた葬送」によって忌避されつつある。「墓参りなんか必要ない」とする若者が今後増えれば、社会倫理の崩壊を招く遠因になるのでは、との危惧を覚える。

 ある学生が、授業の終わりにこう言ったことが胸に響いた。「感謝のこころを忘れずに、お墓に死者の魂は宿るという日本人ならではの考え方は、とても素敵なことだと思いました」

 先日、春のお彼岸の供養が筆者の自坊であった。今年の彼岸は、新型コロナウイルス感染拡大の最中で、出足が心配されたものの、むしろ例年より2割ほど増えた。社会不安の時代だからこそ、人々は心の安寧を求めている証左ではないだろうか。

筆者

鵜飼秀徳 (うかい ひでのり)ジャーナリスト・浄土宗僧侶

 1974年、京都市右京区嵯峨・正覚寺(浄土宗)生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て、2018年より独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
著書に、『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)、『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)など多数。

「株式会社共同通信社 Kyodo Weekly」 2020年5月4日号より転載