コラム社会鵜飼秀徳

過熱化するペット葬儀業界 家族に〝昇格〟したイヌやネコ

 毎年8月下旬、寺院や葬儀社などの業界にとって、見逃せない恒例イベントがやってくる。東京ビッグサイトで開催される「エンディング産業展」だ。最新の葬送情報を得るための格好の場であるため、私は毎回、参加している。

 そこで気になったのが、ペット葬に特化した製品やサービスが増えていたことだ。移動ペット火葬車、愛くるしい骨壺、遺骨をアクセサリーなどに変える手元供養などなど。

 人間の葬送は随分、簡素になってきているが、その流れとは逆に、ペット葬業界は過熱してきているのだ。

 こうしたサービスが増えてきた背景には、人間とペットが自宅内で同居を始め、距離感が縮まってきたことが挙げられる。約30年前まで、たとえばイヌを飼育する場合、庭先に置かれた小屋で飼うケースが多かった。

 しかし、都会ではマンション住まいが増え、また、飼育の犬種も小型化してきたこともあいまって、室内での飼育が当たり前になってきている。

 全国犬猫飼育実態調査では、イヌの場合、室内飼育が2004年では60%だったのが、17年調査では84%にまで増加しているという。ネコでは、04年の室内飼育の割合が72%、17年では86%となっている。

 ペットはもはや、「ファミリー(家族)」に昇格したのだ。今や、イヌやネコの地位は人間と同等か、あるいは、それ以上かもしれない。だからこそ、多くの飼い主は「うちの子」があの世に行けるように、きちんと弔いたいと考えるのである。

 そうしたニーズに応えようと、ペットと一緒に入れる墓を導入する寺院が出てきた。東京・世田谷区にある感応寺だ。感応寺では供養の依頼が人間(檀家)よりも、ペットのほうがはるかに多い。年間の葬儀・法要件数の内訳を見てみると、ペットが46%、水子が41%、祈願やおはらいが8%。人間相手の法要は5%にすぎないという。

 ペットと人間とが一緒に入れる墓は、これまでありそうで、なかった。多くの寺院や公共霊園では人間とペットの遺骨を一緒に埋葬することを認めていないのだ。

 現在、ペットとの“死後の同居”を禁止する明確な法律はないものの、人骨と合葬する際、「国民の宗教的感情に適合」しているかが問題になっている(「墓地、埋葬等に関する法律」第1条)。人間の墓の中に“副葬品”として動物の遺骨を同居させることへの抵抗感を抱く人は少なくない。

 (写真)エンディング産業展で展示されていたペット用の骨壷

 そこで、感応寺ではこうしたトラブルを回避できる合葬墓を開発した。同じ区画に人間用とペット用のカロート(遺骨を納める場所)を分けて納骨できるデザインの墓(プラスペット墓)を販売し、盛況だという。

 なにも“生身の”ペットだけではない。ペットロボットの葬式も始まっている。供養対象はソニーが開発した犬型ロボット「AIBO」である。AIBOは1999年に初代が発売。25万円と高額であったが、発売わずか20分で国内受注分3千台が売り切れる盛況ぶりであった。

 こうしたペットロボットは今、高齢者施設などでの導入が進む。生きたペットの飼育は衛生上の問題がある。ペットロボットならそうした心配がない。

 初代AIBOはソニーの業績の悪化とともに、2006年に製造が中止。部品供給が止まった。そのため、故障したAIBOを修理するために別のAIBO(ドナー)から部品を調達する必要が出てきた。ドナーになったAIBOは「死んで」しまう。そこで「弔いたい」と考えるAIBOオーナーが出てきているのだ。

 私は昨年、千葉県いすみ市の光福寺で行われたAIBO葬に参列した。読経が流れる中、114台の動かなくなった「イヌ」に次々と引導が渡された。3年前、初めての葬式の時に弔われたAIBOは17台だけだった。だが、回数を重ねる度に供養されるAIBOの数は増えているという。

 米国の文化人類学者に話を聞いたところ、ペットを丁寧に弔うのは、世界のどこにも見られない日本人独特の葬送意識であるという。ましてやロボットまで弔うなんて、「奇妙だ」とか。

日本には針供養や人形供養、メガネ供養などさまざまな供養の形がある。何でも供養したいと願う慈悲の心は、日本人のDNAの中に組み込まれたものかもしれない。

 それなのに…。人間の弔いは、簡素になる一方である。私は、弔われる者(モノ)との「関係性」次第で、弔いの意識は変化すると考えている。すでにファミリーになったペットやペットロボットは、人間との固い絆で結ばれている。

 しかし、人間社会の結びつきについては、核家族化・高齢化などによって〝分断〟されつつある。本来の手厚い葬送の姿が取り戻せた時、日本は本当の意味での成熟社会といえるのかもしれない。

筆者

鵜飼秀徳 (うかい ひでのり)ジャーナリスト・浄土宗僧侶

 1974年、京都市右京区嵯峨・正覚寺(浄土宗)生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て、2018年より独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
著書に、『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)、『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)など多数。

「株式会社共同通信社 Kyodo Weekly」 2019年10月14日号より一部修正して転載