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広がる「ホームステージング」シニアライフのサポートも

「ホームステージング」。耳慣れない言葉だが、中古住宅の流通が盛んな1970年代初頭のアメリカで、家具や小物を効果的に配置することで物件の「魅力」を引き出し、確実な販売へつなげる手法として誕生した。日本でも近年、超高齢化社会の到来やコロナ禍による郊外への移住希望が増える一方、さまざまな社会変化に寄り添い、快適な暮らし方を提案する「ホームステージング」の活用の場が広がっている。

資格取得者、約4,500人

ホームステージングを実現する資格取得者を「ホームステージャー」という。住まいに関わる整理、収納、清掃、インテリアコーディネート、断捨離、遺品整理等の悩みを解決する。

日本では2013年、(一社)日本ホームステージング協会(代表理事:杉之原富士子氏)が日本で唯一、「ホームステージャー認定講座」を実施し、日本独自の住宅事情や生活習慣に合ったホームステージングの人材育成に努めている。2022年10月末現在、資格認定者は約4,500人を数える。

独立、結婚、子育て、定年など、人生におけるイベントで住環境が変わると同時に、ホームステージングの内容も変化する。住宅の売買・賃貸時に必要な、住まいの「魅力」や「演出」によって流通スピードを上げたり、整理収納等の知識やインテリア・小物の有効活用で、より快適な住まいと暮らしを提案する。

さらには、効果的な生前整理や断捨離などによって、豊かなシニアライフをサポートするなど、ホームステージングは生活のさまざまなシーンに寄り添っている。

ホームステージャー育成認定講座には、2級と1級(ホーム/ライフ)がある。2級は、片付け・掃除・居住中ホームステージング・遺品整理等の基本内容がカリキュラムに組み込まれ、ホームステージングの全体像を幅広く学べる。

個々のライフステージに合わせ、家具や小物を効果的に配置するホームステージング
(日本ホームステージング協会提供)

2級取得後に受講が可能な1級では、ライフ(生前整理や遺品整理など、主に福祉業界や介護業界で必要な技術を習得)とホーム(インテリアの演出や家具家財の提案方法等、主に不動産業界、リフォーム業界、家具業界で必要なホームステージング技術を習得)の2コースから選択できる。

これまでの受講者は、不動産仲介業者やインテリアコーディネーターなど専門職が中心であったが、当協会は今秋、個人(一般生活者)への普及を目指し、受講内容の改革に取り組んだ。ビジネスとして活用するだけではなく、「個人」の生活へも取り入れてもらうことが狙いだ。というのも、今年4月に実施した「実家の型付けに関する実態調査」で、実家の片付けが必要との回答が約7割を占めたものの、「どこから手をつければよいか、わからない」といった声が寄せられたためだ。

介護の課題解決の一助に

来年1月からは、1級講座に含まれていたシニアホームステージングの内容を、受講者数の多い2級にも組み込む予定だ。

シニアホームステージングは、ライフステージや年齢に合わせた整理や収納方法、使い勝手の良い住まいへのアドバイス等を行い、自分で判断し、自分の身体が動くうちに安心安全な住まいにつくり変えるよう、「シニア世代」へも働きかけていく。

いざ介護生活が始まった際、「介護ベッドを置くスペースはあるのか」、「足腰が弱った際の手すりを付ける場所を考えて家具を配置しているか」といった動線の確保は、自宅に長く住み続けるためには重要な課題だ。

介護ベッドは思いのほか場所を取るということも、搬入の段階で初めて気が付く人が多い。親の介護という身近な課題解決の一助として、シニアホームステージングは活用できる。

想い出のあるモノを捨てることを躊躇する傾向は年齢とともに強くなりがちであり、子も親の家を片付けたくても「どこをどうすればいいのかわからない」ことが多い。

そんな中、シニアホームステージングを学びながらプロとしての目線で片付けることで、親が快適に長く住み続けられる住まいを実現できるのではないか。それは、国の示す「地域包括ケアシステム」構築の一助となるかもしれない。

ホームステージングは、住宅の枠を超えた「気持ち」までも、より豊かにする可能性を秘めている。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年12月12日号掲載)

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筆者略歴

不動産経済研究所 編集部門 企画編集チーフ

仁禮 靖子(にれ・やすこ)

1969年東京都出身。東京外国語大学ロシア語学科卒。不動産業界の取材および不動産専門誌の編集を手掛ける。

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