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所有者不明土地問題の解消に向けマイナンバー活用を

行政システム(株)行政システム総研顧問・蓼科情報(株)主任研究員 榎並利博

不動産経済Focus & Research 2024.4.24掲載)

2024年4月から相続登記の申請義務化が施行された。従来は任意であった相続登記の義務化によって、所有者不明土地の発生を防ぐことが期待される。また、2023年に施行された相続土地国庫帰属制度では、望まない土地の取得者が土地を手放せるようになった。このように所有者不明土地問題の解消へ向けて一歩前進したことは評価すべきだが、これで満足してよいのだろうか。

システムで土地を管理するために

所有者不明土地問題は、2010年代半ばに東日本大震災の復興事業が進まないことに端を発して取り上げられるようになった。土地の所有者や相続者が亡くなっているなどの理由で用地買収ができず、事業が進まないという問題だ。特に相続手続きがされていない土地が多く、代襲相続によって相続権者が膨大な数になり、事務手続きに何年もかかるケースもあった。

そのほか、空き家対策、農地や林地の利用集積・集約化、公共工事や開発事業、地籍調査、固定資産税徴収などでも同様な問題が起きており、所有者不明土地問題は大きな社会問題となった。当時のある調査では、所有者不明土地の数は約4670万筆、面積は九州より広い約410万haという数字が発表され、問題の深刻さを突き付けられた。

この問題をシステムの観点から考えると、それほど難しくはない。不動産登記簿の所有者にマイナンバーを設定し、戸籍にマイナンバーを付番すればよい。所有者の最新住所は住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)で管理されているため、住所が変更になってもマイナンバーですぐに最新の住所が確認できる。また、所有者が亡くなった場合には住基ネットから通知が来るため、所有者のマイナンバーで戸籍情報にアクセスし、相続者を特定できる。

実際、このような仕組みはすでに韓国で実現されている。韓国では戸籍制度が廃止され、新しく家族関係登録制度が創設された。ここでは本人と父母、配偶者、子女の三代の関係が住民登録番号(日本のマイナンバーに該当)で管理されており、相続関係もすぐに判明する。さらに、土地も住民登録番号で管理されており、承継ワンストップサービスでは相続人が被相続人の土地(相続財産)を照会することも可能だ。

利用が進まないマイナンバー

しかし、日本では簡単には進まなかった。「日本再興戦略改訂2015」ではマイナンバーの利用を戸籍へ拡大することが明記され、「戸籍制度に関する研究会」と「戸籍システム検討ワーキンググループ」が立ち上げられた。ところが、最終結論としてマイナンバーは使わない方針となった。2019年の戸籍法改正では「マイナンバー制度への参加」を掲げているが、これは情報提供ネットワークシステム(および符号)を使うという意味であり、マイナンバーそのものは使わない。

一方、不動産登記については、規制改革推進会議の第一次答申(2017年)で、不動産登記のデータ整備(相続登記の促進)をすべきこと、マイナンバー利用が検討されている戸籍と連携すべきことなどが掲げられた。これを受けた「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」の「中間とりまとめ」(2018年)では、戸籍情報と不動産登記情報をID(マイナンバー)で連携する旨の図が示された。しかし、「法制審議会民法・不動産登記法部会第23回会議」(2020年)では、所有者不明土地等対策においてマイナンバーを活用しない方針が決定された。現在の制度ではマイナンバーで必要な情報を取得できないというのがその理由であった。情報取得のための制度改正やマイナンバー利用の可能性については何ら触れられることはなかった。

それを受けた政府の「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」(2023年)では、土地所有者等に係る最新の情報を把握するために「住基ネットの活用」を進めることが決定された。2023年当初、マイナンバーの紐づけミスが大きな問題となったが、これは保険証の誤登録に住基ネットの氏名・住所を利用した結果である。

中長期を見据えマイナンバーの活用を

氏名や住所だけで個人を特定できないことが年金の納付記録問題で明らかとなり、そこで個人を特定する番号が必要とされ2016年にマイナンバーが創設された。戸籍や不動産登記でマイナンバーを使わないと、個人が特定できない、間違った個人を特定してしまうという危険性を大いに孕んでいる。だがそうした議論もなく、2023年6月には第13次地方分権一括法*が成立し、土地所有者探索のために住基ネットを利用することとなった。住民票の写し等の公開請求や添付が不要になり、行政事務の効率化になるという。紙からオンラインへは一歩前進だと言えるが、氏名・住所では正確な個人特定はできないことを前提にすべきだ。

もちろん、マイナンバーを付番したからといってすぐに相続者が特定できるわけでもなく、死亡者などは付番ができない。しかし、今からマイナンバーを付番するという努力を続けていけば、10~20年後には相続者の特定もできるようになる。将来を見据え、所有者不明土地問題を解消するために、マイナンバーを活用するという中長期的視点をもってDXを実行すべきである。

*地域の自主性および自立性を高めるための改革の推進を目的とする関係法律の整備に関する法律

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