エネルギーコラム今西章

再生エネは主力電源になるか 2022年度から新支援制度

日本も脱炭素社会に向け動き始めた。カギとなるのは再生可能エネルギーで、2022年度から新たな支援制度がスタートする。再生エネ発電所も、石炭火力発電所など他の大型発電所と同様に市場取引を活用する、自立した電源にする狙いだ。新制度では新たなサービス提供企業の出現が期待される。最先端のエネルギーサービスが次々と生み出されていくことで、再生エネの主力電源化がみえてくる。

太陽光発電をはじめとする再生エネ発電所の売電には市場原理が導入される(筆者撮影)

日本は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするために、産業界や国民生活などあらゆる分野で大変革を進めている。脱炭素社会を実現するための必要不可欠な要素が再生可能エネルギーだ。

 政府は2022年4月から新たな再生エネの支援制度をはじめる。12年7月から開始した従来の支援制度はFIT(フィード・イン・タリフ)制度といい、再生エネ発電所から発電した電力について、時間帯にかかわらず常に一定の価格で大手電力会社のグループ会社である送配電事業会社に売電していた。

 新たな支援の仕組みはFIP(フィード・イン・プレミアム)制度といい、再生エネ発電所の電力を市場で取引するように優遇措置を設けて誘導する。

 電力の現物取引市場である日本卸電力取引所(JEPX)では、季節や電力需給の状況によって30分単位で絶えず取引価格は変化する。FIP制度では再生エネ発電所の市場への売電収入に補助額(プレミアム単価)が上乗せされる。プレミアム単価はFIP制度実施期間にわたり固定される基準価格(FIP価格)から参照価格を引いた金額。基準価格は経済産業省の有識者委員会の意見もしくは電源によっては入札制で決まる。

 参照価格は市場価格の平均価格を基礎として1カ月ごとに算定する。例えば基準価格が1キロワット時当たり12円で、ある月の参照価格が1キロワット時当たり10円ならばその月のプレミアム単価は1キロワット時当たり2円となる。

 一定の価格で売電を国が保証するFIT制度は、黎明(れいめい)期において再生エネを日本で導入拡大するための起爆剤の役割で、永続的な制度ではない。FIP制度は再生エネ発電所を一人前として成長させるまでのつなぎの支援制度だ。

蓄電池の活用 

 現行のFITでは太陽光発電の売電価格を1キロワット時当たり18円で認められているならば、発電量に応じて売電収入を計画的に得ることができる。一方、FIPは発電した電力を市場取引価格16円で売れて、プレミアム単価が4円ならば計20円の収入となる。ただ時間帯によっては9円でしか売れない場合もあるし、11円と高値で売れる場合もある。

 FIP制度になると、再生エネ発電所が電力需要増により市場価格が高くなるような季節や時間帯を意識して売電するよう工夫することを期待されている。

 昼間など、市場価格が安く電力が余っている時に蓄電池へ電力を貯(た)めておいて、需要のピークとなる夕方の電力が足りない時に市場に売り出すようにすると地域全体の電力需給ひっ迫の解消につながるので、送電系統網の安定運用にも貢献となる。FITでは、どの時間帯でも一定の売電価格なのでそういうインセンティブはなにも働かない。

 FIP制度の肝は蓄電池の活用だ。例えば発電時の市場価格が10円のところを蓄電池に4時間貯めておいて価格が18円に上がったときに売ることができれば、4円のプレミアム単価を合わせると22円になる。

新たなプレーヤー

 政府は新たに開発する再生エネ発電所にFIP制度が適用されていくことを見込んでいるが、今のFITを適用されている発電所もFIPへと移行することも認めている。

 例えば14年にFIT認定を受けた発電所も、22年4月からFIPに移ってよいことになる。想定されるFIP再生エネ発電所の市場取引方法は3種類だ。

 一つは発電所自らが直接JEPXで取引する方法だ。二つ目は、アグリゲーター(仲介業者)を介して市場取引する。三つ目は発電所が小売電気事業者と相対取引により売る方法だ。

 なかでも、いくつもの中小規模の再生エネ発電所の電力を取りまとめて市場取引するアグリゲーターは、電力事業を活性化させる新たなプレーヤーとして期待されている。再生エネ発電所の運用は中小企業が多いので、JEPXの参加や相対取引をするにはハードルが高いからだ。

 実際に、東芝やディー・エヌ・エーはアグリゲーター事業に参入すると表明している。ある程度の再生エネ発電所がFIPに移行していくと、アグリゲーターを育成できる土壌が整ってくるという。

 再生エネ発電所にとって複数の選択肢があれば、FIP移行の不安が和らぐことになる。その一つがアグリゲーターとの契約だ。

 例えるならば、株取引をいきなり証券取引所で売る人はいない。証券会社で口座をつくってそこでやりとりするようなものだ。

 そういう新サービス提供企業が出てくるのがFIP創設の狙いでもある。どんどん広がればアグリゲーターが最適制御や蓄電池などを活用し、いろいろな最先端のエネルギーサービスをできるようになる。そうなると再生エネの主力電源化がみえてくる。

【筆者略歴】

創省蓄エネルギー時報 編集次長

今西 章 (いまにし・あきら)

1975年、群馬県太田市生まれ。慶応大文学部卒。経済誌編集記者などを経て2010年からエネルギージャーナル社に入社、「週刊エネルギーと環境」「創省蓄エネルギー時報」の編集、取材執筆業務に携わる。日本環境ジャーナリスト会理事

(KyodoWeekly4月12日号から転載)