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被災情報は「水や食料と同じ」―急ぎたい地域FM、臨災局の準備―

元東京新聞編集委員・論説委員 長竹孝夫

不動産経済Focus & Research 2024.5.29掲載)

能登半島地震から5カ月、災害復興が急がれている。甚大な被害が出た石川県輪島、珠洲、能登、穴水の奥能登地域4市町では、自治体が住民向けに支援情報などを伝える「臨時災害放送局」(災害FM)が開設されていない。人員不足などが要因と言う。

人口比で少ない東京の地域FM

30年以内に70%の確率で起きるとされる「首都直下地震」。この際も必要とされる臨災局である。災害発生時には、地域密着型のコミュニティ放送から臨災局に移行するケースもあるが、昨年12月現在の「コミュニティ放送の現状」(総務省調査)をみると、首都圏のコミュニティ放送事業者は神奈川の17をトップに、東京16、埼玉13、茨城、群馬各7、千葉6、栃木5である。「都心南部直下地震」ではマグニチュード7.3が想定されることを考えると、東京の事業者はあまりにも少ない。

コミュニティ放送事業は、1992年に放送法施行規則の一部が改正され、「地域FM」として周波数の割り当てが始まった。事業者は阪神・淡路大震災から急増し、さらに東日本大震災(3.11)を機に増えて2014年には300に。そして昨年末には341までになったが、近年は微増傾向である。

3.11時の地域FMと「臨災局」

地域FMや臨災局は3.11の時にどうだったのか。群馬県太田市を中心に放送している「エフエム太郎」は、阪神・淡路大震災時に地域FMが役立ったことで、1998年10月10日に開局した。3.11時には「誰がどこでどうしているのか」という安否情報や避難所、救援物資などの情報が求められたが、大手の放送局はカバー仕切れず。このため地元の被害や停電、交通情報などを刻々と伝えた。

例えば、ガソリンスタンドの給油待ち時間情報や「〇〇ホームセンターは電池や懐中電灯が売り切れです」といった地元密着の情報を流し、エリア内にブラジル人が多く住むためポルトガル語でも放送した。当時の金子一男社長は「地元の情報があって助かったという住民が多く、その後のアンケート結果でも8割の人が地域FMを聴いたと答えた。課題は運営費用・・・」と話した。

一方、3.11直後に宮城県山元町で臨災局として認可された「りんごラジオ」。開局したのは山元町の情報がなかったため。役場の通信機能が被災し、大手放送局の報道は気仙沼や石巻などに集中した。5日間にわたる「情報の孤島」は、相次ぐ余震の中で、町民の多くが不安を通り越して恐怖になっていたという。

立ち上がったのは、かつて東北放送のアナウンス部長や報道局長も務めた山元町居住の高橋厚さん。「必要なのは水や食料と並んで情報だった。知人に放送機材を運んでもらい、町長の協力のもとで役場一階ロビーを放送スペースとして確保した。犠牲者数、行方不明者名、ライフラインなどの被災関連情報を伝えた。その後、放送席には政治家のほか、芸能人なども出演し被災者を激励した」

「誰のために、何のために、どんなことを、どのように伝えるか。これはラジオ局が判断した。町が放送内容に立ち入ることは皆無。24時間電波を出し、生情報は午前8時から午後6時まで。毎時間の情報や話題は町内限定にした」(高橋さん)という。

総務省によると、臨災局は災害時の被災、避難、復旧情報などを地元に伝えるFM放送として、市町村長が総務相に免許申請する。隣接自治体も聴取地域とする場合があり、出力150ワットまで認められる。宮城のほか、岩手、福島、茨城の4県で3.11後に17局が開いた。うち10局は地域FMから臨災局に衣替えした。やがて臨災局は21局まで増えた。

ラジオが震災時利用媒体で高評価

3.11の半年後、日本民間放送連盟研究所が宮城県の仙台、名取、気仙沼、陸前高田の被災4市の仮設住宅に住む500人に役に立った媒体(複数回答可)を聞いたところ、震災当日はラジオ43.2%、家族・隣人・知人等40.4%、自治体・警察・消防等10.4%、テレビ10.2%だった。翌日~翌々日は家族・隣人・友人等55.0%、ラジオ53.2%、自治体・警察・消防等18.4%、新聞14.4%、テレビ13.6%。3日後~1週間後はラジオ58.6%、家族・隣人・友人等55.0%、新聞34.0%、テレビ26.6%、自治体・警察・消防等22.6%。どの段階もラジオが高い評価を受けた。

地震や津波によるインフラ被害が大きかった3.11。総務省の「平成23年度情報通信白書」によると、通信系の被害は固定電話の場合、約190万世帯の回線が途絶(3月13日時点)、携帯電話・PHSの基地局も2万9000局が停波(3月12日時点)。東北電力管内だけで停電は延べ486万1200戸と広範囲に及び、復旧に最大3カ月要した。

こうしたことから地域FMや臨災局の注目度は高いものの、能登半島地震では課題を抱えている。メディア研究者の一人は、臨災局開設について①事前に制度を知らず、発災後に説明を受けたため開局に踏み切れなった、②職員も被災して自治体の人員が限られ、ラジオ局の運営を担う人がいなかった、③放送波が届く範囲が限られ、自治体が有効性を感じなかった-等々を挙げている。

練馬区は3団体と「臨災局協定」

最大死者約2万3000人、火災による死者約1万6000人、焼失・倒壊建物約61万棟、避難者は約720万人と想定される首都直下地震。東京・練馬区は、大規模災害が発生した場合の情報発信体制を強化するため、2018年1月に日本大学芸術学部、ジェイコム東京、練馬放送の3団体と「臨災局の開設および運営に関する協定」を締結した。

いざという時、自治体単位の情報をどのように住民に伝えるか。地域FMのない自治体もある。臨災局の開設を求める自治体にはどのような支援が必要か。市民への情報提供のあり方を含め官民一体の早急な対応が求められる。防災局は、大地震だけでなく、豪雨、洪水、大規模火災などにも活用できるだろう。

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