〝霞が関〟ユーチューバーが活躍農林水産業の魅力を発信
〝霞が関〟初の官僚系ユーチューブチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」をご存じだろうか。農林水産省の職員がユーチューバーとなり、農林水産業の魅力を発信している。新型コロナウイルス禍で売れなくなった花を応援する動画で火が付き、今年1月までに85万回の再生回数を獲得している。真面目な役所仕事や硬派な社会ネタも、工夫次第で耳目を集める好例だといえる。
ラップでフードロス
UH、AH~。「頼みすぎた焼き鳥が冷めた面して転がってる。ダレてる。(飲み会)そろそろお開きにしよう~」
ノリノリの若手男性職員が「フードロス」(食品廃棄削減)をラップ調で歌う。時にはギターを片手に農水省動物検疫所のイメージキャラクター「クンくん(検疫探知犬)」の歌を歌う。ユーチューブチャンネル「ばずまふ」では、プロ歌手顔負けの動画が配信されている。
中には実際に大手レコード会社から声がかかった職員もいるとかいないとか。
同チャンネルの仕掛け人は、農水省広報企画第4係長の松本純子さんだ。
きっかけは約1年前、大臣から「広報発信しても読まれていない。もっとユーチューブなどを活用して工夫してみては」と言われたことだった。
「大臣の言葉にハッとした。ホームページに掲載していれば十分と感じていた」(松本さん)と当時を振り返る。
それから松本さんは人気ユーチューバーの動画を一心不乱に視聴し、人気の秘訣(ひけつ)や炎上しないコツなどを徹底的に調査。独自の動画制作マニュアルを策定した。当初は「前例がない」「予算がない」などと尻込みする職員が多かった中、「マニュアルがあります!」といって説き伏せ、行動を促したという。
ユーチューバーとなった職員は「業務の2割を動画制作にあててよい」と大臣・人事からお墨付きも得て、2020年1月に農水省の公式チャンネルを立ち上げた。
当初は鳴かず飛ばずだったが、同年3月に花の消費喚起策「花いっぱいプロジェクト」をPRした九州農政局の動画がヒットし、視聴者が一気に増えていった。
どこかクスッと笑えるところが「ばずまふ」の特徴だ。
花のPR動画でも、最初は真面目な男性職員2人が淡々と花の魅力を語っているが、目の前に置かれた花瓶の花が時間とともに増えていき、最終的には職員の顔を覆うほどまで増加。思わず「置きすぎだろ!」と突っ込みを入れたくなる内容だ。
マニュアルがあるため、「内容にはほぼ口出ししない」(松本さん)ことが、自由な発想でユニークな動画が生まれる後押しになっている。
電力事情を動画で解説
今、「ばずまふ」に限らず、硬派な内容をユーチューブで楽しく伝える動画が増えている。例えば、“電力系ユーチューバー”といった人たちも誕生している。
「天気予報士」ならぬ「電気予報士」として活動しているユーチューバーの伊藤菜々さんは、再生可能エネルギーや送配電といった電力の仕組みをアイドル並みの美貌を用いてコミカルに伝えている。棚瀬啓介さんは「『勝手に』電力2・0」と題してちょっとマニアな電力解説チャンネルを配信している。
2人とも普段は別の仕事に従事しながら、ユーチューバーと二足のわらじをはく。2人とも、難解な電力の仕組みをわかりやすく情報発信したいとの思いが活動の原動力となっている。
時には2人で連携して、ブロックチェーン(分散型台帳)による再生エネの取引プラットフォームを手がけるデジタルグリッド(東京都千代田区)の豊田祐介社長を取材。技術の仕組みやビジネスの話などを聞いて、動画で流すといった取り組みも行っている。
菅義偉総理が2050年の脱炭素化を表明し、二酸化炭素(CO2)を大量に排出する電気はどうあるべきかは国民的な議論になってきた。
電力系ユーチューバーの活躍の余地は大きいだろう。願わくは、首相官邸が「ばずまふ」のようなユーチューブチャンネルをつくり、わかりやすく国民に解説してくれるといいのだが―。高望みだろうか。
【筆者略歴】
日刊工業新聞記者
大城 麻木乃 (おおしろ・まきの)
1978年、沖縄県うるま市出身。2004年、日刊工業新聞社入社。化学、食品業界、国際を担当、2020年から不動産・住宅・建材業界担当の傍らSDGsを取材。近著に「SDGsアクション<ターゲット実践>」(共著)
(KyodoWeekly2月8日号から転載)