Newエネルギーコラム北川弘美

木質バイオマスの熱利用による新しいエネルギービジネス

株式会社 WB エナジー 取締役副社長 北川弘美

不動産経済Focus & Research 2023.12.20掲載)

太陽光発電や風力発電など、固定価格買取制度(FIT)による再生可能エネルギー発電に続いて着実に広がりを見せているのが「木質バイオマスの熱利用」だ。近年、このエネルギーの導入が加速していると同時に新しいビジネスが生まれている。本稿では事例を交えて紹介する。

バイオマス熱利用のメリットと導入に向けた課題

木質バイオマスの熱利用とは、チップやペレットなどの木を燃やした熱をお湯として使うエネルギーである。公共施設や宿泊施設など中規模以上の建物には、通常ボイラー室があり、ガスボイラーや重油ボイラー、灯油ボイラーなどいわゆる化石燃料のボイラーが設置されていることが多い。これを再生可能エネルギーであるバイオマスボイラーに置き換えるのだ。

これまでバイオマスボイラーは、お湯を必要とする温浴施設や宿泊施設など、エンドユーザーによって導入されるケースが主流であった。ところが近年、地域に根差した企業がエネルギーサービス事業を立ち上げると同時にボイラーの所有者となり、エンドユーザーに熱供給(熱を販売)するビジネスが注目を集めはじめている。地域で信頼されている企業が舵を取ることで、バイオマス熱利用に馴染みが少ないユーザーでも安心して利用しやすくなることが狙いだ。

バイオマスボイラーに置き換えるメリットは、燃料代の削減をはじめ、二酸化炭素削減への寄与、地域資源の活用による資源循環など多岐にわたる。他方、導入に向けた主な課題は、導入費の工面、適切な燃料の調達、面的な体制の整備である。

まず、導入費に関しては、バイオマスボイラーの導入には数百万円から数千万円の投資が必要となる。バイオマス熱利用の潜在的なユーザーである温浴施設や宿泊施設などは経営的に安定していても、初期投資が負担になることが多い。このため、燃料代削減により着実に投資回収ができるとわかっていても、投資金額で二の足を踏んでしまうこともしばしば起こり得る。

次に、燃料の調達について、この規模のバイオマスボイラーは、水分や形状などが管理されたチップを使わないと、燃焼効率が低下したり、燃料が詰まるトラブルなどが発生しやすくなる。日本のチップは従来、製紙用のチップ生産が主流であり、水分管理を必要としなかった。このため、燃料用チップを供給するにはこれまでと異なった体制が必要となる。

最後に、体制について、バイオマス利用をする上で、チップを用意したりボイラーに関心が高い担当者を配置するなど一定の体制整備が必要となる。バイオマスボイラーの利用先が複数施設あれば施設ごとに整備する必要がないため、効率的で運用費の抑制にもつながる。

これらの課題に対応できるのが冒頭のエネルギーサービス事業である。通常、本事業を立ち上げることができるのは、自社資金にて設備導入が可能な地域の有力企業であることが多い。また、エネルギーサービス事業として立ち上げるため、燃料生産や調達に配慮しながら、1施設ではなく複数施設への導入を目指すことで面的な体制整備のインセンティブにつながる。

注目される那須建設の取り組み

その代表的な企業が、山形県長井市にある那須建設株式会社である。那須建設は総合建設業として、土木、建築、住宅事業を展開しているだけでなく、再生可能エネルギーにも先駆的に取り組んでいる。太陽光発電やバイオガス発電事業に加え、近年はバイオマスエネルギーのサービス事業にも力を入れ、スギ苗生産からチップ生産、バイオマスボイラーの設置・管理運営までといった川上から川下までバイオマスに携わる事業を展開している。

那須建設は、本事業を展開するにあたり、まずは関係会社が運営する温泉施設へのバイオマスボイラーの導入および運営を行った。その結果、実質約1000万円の燃料代削減効果が生まれ、着実な手ごたえを感じていると話す。

そして、このビジネスモデルは、本事業を活用してバイオマスエネルギーを利用するユーザーにとっても大きなメリットがある。それは、燃料代が長期間にわたって固定できるため、経営計画に反映しやすく、設備更新の自己負担も不要である。燃料代が高騰している現在、燃料代の見通しがつくというのは経営的に非常に有益である。

地域でwin-winの関係を構築できる那須建設の取り組みは、地域活性化の観点からも注目を浴びている。那須建設が開催する視察会は満員御礼が多く、参加者の中には那須建設と同様に、各地域でバイオマスエネルギーサービス事業を始めようと計画している関係者が多い。視察会に同行した筆者は、木質バイオマスという地域の資源を一企業で独占するのではなく、地域の関係者やバイオマス導入により不利益を被ると想定される燃料関連事業者などといった、地域全体を巻き込んだ取り組みが徹底されているという点に改めて気づかされた。

那須建設のような企業が各地域で誕生すれば、今後ますます、木質バイオマスの熱利用は拡大していくだろう。

北川弘美のコラム

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