エネルギーコラムピックアップ真柄勳

林業活性化へ国産材活用を、求められる政策支援

「森林大国」である日本は森林が豊富な一方で、木材自給率は4割にとどまる。国内では主伐期にある人工林も多く広がっているが、森林の着実な整備や木材の活用が求められる。最近では、国産材活用へ向けた、企業による設備投資の新計画などの発表が相次ぐ。森林の整備や国産材の活用推進、また国内林業の活性化には、企業の積極的な活動とともに国を挙げた支援が欠かせない。

(写真:地方の町で山積みにされていた国産材木=筆者撮影)

林野庁によると、日本の木材自給率は2020年に41.8%となった。20年前には18.8%に落ち込んだ自給率は改善を続け、2011年から10年連続で上昇した。

だが現在も約6割を輸入に頼る中で、昨年の米国での住宅建設の需要増や、世界的なコンテナ不足による輸送コストの増加などを受け、世界の木材価格が高騰する「ウッドショック」が発生した。日本国内では国産材の急な増産が難しく、価格や供給で影響を受けた。

さらに現在のウクライナ情勢や、円安により海外からの輸入品の値上がりが続く懸念もある中で、エネルギー資源や食糧などの価格高騰と供給の不確実性が顕著になり、これらの物資と同様、木材も国内での自給体制や供給安定性をより強固にすることが重要となる。

森林は木材用の原木の供給となるだけにとどまらず、水源の涵養や水質の浄化作用を持つとともに、しっかり成長した木々の根が土壌を支え土砂災害を防ぐほか、光合成によって大気中の二酸化炭素(CO²)を吸収することで、地球温暖化の防止に寄与するなど、さまざまな機能を持つ。

これらの森林の機能の保持や育成には、過密な樹木を適切に間伐し日光や雨、雪解け水を森林の地面や地中に浸透させる必要がある。

日本の森林は国土の3分の2に当たる約2500万㌶で、うち人工林が約1000万㌶を占める。国内の森林は人工林を中心とした蓄積が、毎年約6000万立方㍍増加し、現在は約54億立方㍍までに達している。

面積ベースでは人工林の半分は一般的に主伐期となる50年以上が経過し、これらの木を収穫し木材として有効活用すると同時に、計画的な再造成と循環利用により森林を整備することが望まれる。

木材工場建設、各地で浮上

こうした森林の整備や国産材活用に向け、民間企業の積極的な新たな動きもある。住友林業では、鹿児島県志布志市で国産木材を加工する新工場建設を目指し、今年2月に市と協定を締結した。

2025年の操業開始を目指し、同様の工場を国内各地で整備する上、木材コンビナートでの国産材使用量を2030年度に100万立方㍍規模にする予定だ。

三菱地所、竹中工務店、大豊建設、松尾建設、南国殖産、ケンテック、山佐木材の7社が出資するMEC Industryは、鹿児島県姶良郡湧水町で建設を進めてきた、国産木材を活用する生産拠点「鹿児島湧水工場」が5月末に完成した。

この工場では原木調達から建材の製造・加工、新建材やプレファブリケーション化した戸建住宅の製造、各商品の販売まで一気通貫で行う。

さらには地球温暖化防止対策へCO²排出の削減が強く求められる中で、森林のCO²吸収効果をクレジットとして発行し、企業が自社の事業で排出した分との相殺に活用する取り組みも、大手エネルギー会社などが注力している。

大手石油元売会社のENEOSホールディングスは、愛媛県久万高原町、久万広域森林組合と1月に協定を締結し、創出したクレジットをENEOSが買い取り、久万高原町は還元された利益を森林整備に充て、森林資源の循環利用を促す。

国産機械の充実も不可欠

森林整備を促す動きが相次ぐ一方で、住友林業の光吉敏郎社長は、「新工場では、木材の加工機械などに、どうしても欧州製の設備を入れることになる」とも話す。

一般社団法人有機資源協会が2月に開催したシンポジウムに登壇した、岡山県西粟倉村の青木秀樹村長は「国内の木質資源の活用へ、国産の機器の充実が重要だ」と説く。

西粟倉村は国から「バイオマス産業都市」に認定され、村内の樹木のチップやまきを熱や発電用燃料に活用し、バイオマス関連産業の活性やエネルギーの脱炭素化につながる取り組みを展開している。

一方で、村内の設備は欧州製の機器も採用されているが、青木村長は「バイオマス利用設備は、海外製が現在の主流で、部品調達や維持管理の課題があり、今後は国産技術や国の支援が絶対に必要。海外の設備は海外産バイオマスの利用を前提とし、国産材を投じれば不具合も生じる」と指摘する。

その上で「日本が脱炭素を目指すなら、機械にも国力を発揮しないと脱炭素は不可能。バイオマス活用は循環型エネルギーも含め、国のインフラをつくるための取り組みだ」と強調する。

森林整備や国産材活用の拡大には、国内の設備や機械メーカー各社による製品開発などの発奮のほか、国による後押しも不可欠となる。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年5月23日号掲載)

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筆者略歴

重化学工業通信社「新エネルギー新報」記者

真柄勳(まがら・いさお)

1987年生まれ、茨城県出身。法政大社会学部メディア社会学科卒業後、2012年に株式会社重化学工業通信社へ入社。再生可能エネルギー分野、自治体出資の地域新電力、アジア諸国政府のエネルギー計画などを取材。

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