熱エネルギーも「地産地消」へ 山形で木質バイオマス利用
「2050年カーボンニュートラル宣言」から二酸化炭素(CO2)削減を求める流れが高まる中、意外と知られていないエネルギーがある。欧州では1990年代後半から普及し始め主流となったが、日本ではこれから期待が高まる「木質バイオマス」の熱利用だ。木を砕いたチップやペレット、薪などといった身近な材を燃料とし、「地産地消」へつながるエネルギーとしての可能性を持つ。山形県での先進事例を紹介する。
ごみを宝に
日本人にとってエネルギーというと「電力」のイメージが強い。しかし、「熱」も非常に身近なエネルギーのひとつである。
お湯や蒸気をイメージすると分かりやすいだろう。一般家庭での給湯利用から、自治体施設等での冷暖房利用、工場でのプロセス熱利用などの様々な場面で、大量に熱が使われている。
木質バイオマスは、電力、熱ともに生成できるのが特徴である。最近、「バイオマスはカーボンニュートラルではない」という記事が目につくが、これは主に電力を前提にした話で、熱の場合は様相が異なる。
バイオマスの電力と熱の違いは、生成する設備の規模にある。電力を作るにはその4倍以上のエネルギーを投入しなければならず、設備の規模も燃料消費量も大型化する。
バイオマスがカーボンニュートラルではないとされるのは、大量に燃料を必要とする発電のために、わざわざ伐採したり、燃料を輸入していることが背景にある。他方、熱利用の場合は、林業や製材の生産過程ですでに発生している残材を燃料にする。
従来は有償で処理されたり、安価で販売されていた材に付加価値がつくため、ごみ扱いだったものがいわば「宝」となる。日本の地域で活用されていない材を消費する、これがまさに「地産地消」のエネルギー利用である。
筆者は熱利用の分野に関わり、化石燃料とは異なるノウハウに基づいたシステム作りを大事にしている。事業では、バイオマス利用システムに関する調査・設計から、バイオマスボイラーの設置、保守までの一連を手がけており、ボイラーを利用する側も燃料を提供する側も、そして環境にも配慮した、いわば社会全体にメリットがある仕組みづくりをコンセプトとしている。
熱を大量に必要としているのは、自治体、温浴施設、宿泊施設、福祉施設などが挙げられる。ボイラーを使うメリットは、二酸化炭素の削減に加え、燃料代の削減にもつながる。バイオマスの燃料単価は、灯油に比べ4~6割程度であるため、バイオマスの熱利用は、燃料代の削減に効果を発揮する。
短期間で投資回収
山形県にある那須建設(株)は、総合建設業として土木、建築、住宅事業のみならず、再生可能エネルギー事業にも先駆的に取り組んでいる。太陽光発電やバイオガス化発電に加え、木質バイオマスの熱利用に関しても、燃料であるチップ生産工場を立ち上げるとともに、2019年、関係会社が運営する温泉施設「卯の花温泉はぎ乃湯」にバイオマスボイラーを導入した。
はぎ乃湯では、それまで暖房や給湯の熱源として、19万L(1,900万円相当)の灯油を消費していたが、現在ではその95%以上を自社生産のチップで賄い、短期間での投資回収に成功している。
このような取り組みを活かし、熱を大量に消費する施設に対して、自社でバイオマスボイラーを設置・運用し、エネルギーを販売するESCO事業(エネルギーサービスカンパニー)を積極的に推進している。
那須社長によると、2023年には3施設で事業を開始する予定であり、「今後、地域でさらにESCO事業を本格的に拡大していきたい」と意気込む。
木質バイオマスの熱利用の自治体版ESCO事業の実績は見え始めているが、民間企業が民間企業に行う「民民ESCO」は全国初の取り組みであり、那須建設のように、地域でバイオマスによるESCO事業の担い手が出てくれば、バイオマスの本格的な利用拡大に弾みがつくだろう。
2050年カーボンニュートラル宣言を受け、電力についてはメディアでも多く取り上げられているが、エネルギーの半分は熱利用である。100%再生可能エネルギーにするには、熱の再エネ化にもテコ入れをする必要があり、再生可能エネルギーの中で最も熱と親和性が高いのがバイオマスである。
普及状況からしても、バラ色のエネルギーには遠く、課題もまだまだ多い。しかし、脱炭素や化石燃料の高騰という追い風がある中、盛り上がりはじめている身近なエネルギーに期待したい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年1月9日号掲載)
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筆者略歴
株式会社WBエナジー 取締役副社長
北川 弘美(きたがわ ひろみ)
1982年、東京都出身。京都大学大学院地球環境学舎環境マネジメント専攻修了。(株)富士通総研にて環境エネルギー研究・コンサル業務に従事したのち、バイオマス専門のエンジニアリング会社を設立。
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