コラム千葉龍太地域

かながわ「地域経済新聞」の新しい可能性 企業を「つなげる」存在目指し

日本は欧米と比べると、起業数が断トツに少ないと言われる。その中で「紙媒体」での起業となれば、どう感じるだろうか。ほとんどが「難しい」と思うだろう。2013年、「かながわ経済新聞」を立ち上げ、神奈川の町工場から個人商店まで、日ごろはスポットが当たらない中小・小規模企業の取材を続けている。もうすぐ10年。地域経済新聞としての「新しい可能性」が見えてきている。

毎月1回発行の「月刊紙」である弊紙は、13年7月に創業し、スタートアップ期間を経て、14年1月に本創刊した。当時はわずか70部だったが、現在は1万部近く発行するまでになっている。主な読者の対象は、中小企業の経営者や金融機関などだ。日頃は注目されないが、地域経済を下支えする中小・小規模企業の話題に特化している。経営を支えているのは、購読収入のみならず、地域の中小企業や金融機関、経済団体など計80社以上から得た年間協賛も大きい。地域に支えられ、おかげさまで創業以来、何とか増収増益を維持している。

どんな企業の創業社長であっても、立ち上げ時には語り尽くせないほどの苦労がある。筆者の苦労など、取るに足らないものだが、少なくとも創刊当初は、自分で取材したものを紙面化し、自分で商品(新聞)を売り歩き、時には広告をお願いしに行くといった日々が何年も続いていた。

弊紙のようなベンチャー企業にとって、何よりも大変だったのが「知名度」である。知名度ゼロであった創刊当時、アポ取りも大変であった。「おたくの新聞なんて知らないね。取材されて何かメリットがあるの?」。こんなこともよく言われたものである。

現在、年間で累計400~500社の神奈川県内の中小・小規模企業を取材しているが、小さな会社を深く取材すればするほど、まさに人間ドラマがあり、おもしろい。81歳で現場に立ち続ける金属加工業の社長、寝る間を惜しんで豆腐づくりに没頭する商店街の店主など、実にさまざまな経営者と出会う。人として学ぶことも多々ある。

神奈川県内の中小・小規模企業現場のリアルを伝え続けている(筆者撮影)

商売につながる情報が不足

なぜ、地域の中小・小規模企業に特化した媒体なのか。いくつもの理由がある。日本の場合、99%を中小企業が占めており、そのほとんどが「父ちゃん母ちゃん企業」のような小規模企業だ。ところが、一般紙で見かけるのは大手企業ばかりで、ここにスポットが当たっていない。

大手企業には「広報部」があるのに対し、ほとんどの中小企業には「広報」がない。どんなに優れた技術や製品を持っていても、広報がないと、協業先(販売先)に見つけてもらえない。認知度が上がらず求人も期待できない。

また、中小企業には商売につながる情報が不足している。例えば、協業先になり得る企業が近所にあったとしても、知る手段がなかったり、同規模の中小企業の経営手法などを知る術がなかったりする。だからこそ、中小企業の取材に特化し、細かい情報を提供したり、発信したりする地域経済新聞が必要なのだ。

 とはいえ、ここまでの道のりには悪戦苦闘が続いているが、新聞発行を続けるにはおカネがかかる。経営をやっていかなければ、一瞬で廃刊となる。無論、自分の給料も捻出できない。ただ、「買って下さい」や「広告を出して下さい」というお願いばかりの営業では、百戦錬磨の中小企業の経営者には響かないことも痛感している。新聞を続けるうちに、目先の利益を追う考え方は改め、まずは「新聞」というツールを使って、相手(中小企業)にとって何の役に立てるかという考えに変わった。「新聞」を通じ、たくさんの中小企業に貢献していくことで、やがては地域経済の活性化につなげたい。そんな目標も生まれた。

A3サイズで発行している「かながわ経済新聞」

新聞の枠を超えた、「つなぐ」存在に

現在、新聞発行のほか、取材で培ってきた企業のネットワークを、読者でもある中小企業に還元することにも力を入れている。その一つがビジネスマッチングだ。とりわけ中小製造業の場合は、仕事を受けたとしても、単独でできないことが多い。かといって、「顔」が見えないインターネットで協業先を探すのにもリスクがある。そのため、1社1社、足を使って取材している情報は、中小企業にとっては貴重なのだ。

もはや「新聞」の枠を超えていると言われる。産業支援機関に近い。だが、入り口が新聞であることは変わらない。これからのニューノーマル時代、「地域経済新聞」という業態も変わり続けてもよいと思う。手探りだが、模索を続けている。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年3月14日号掲載)

筆者略歴

かながわ経済新聞合同会社 代表

千葉 龍太(ちば・りょうた)

1975年、横浜市神奈川区生まれ。日刊工業新聞第1産業部記者、神奈川新聞経済部記者などを経て、13年相模原市内で「かながわ経済新聞」を創業。相模原商工会議所1号議員。神奈川ニュービジネス協議会委員。

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