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総統選後の台湾と中国、そして国際社会

東京国際大学国際関係学部教授 元産経新聞台北支局長 河崎眞澄

不動産経済Focus & Research 2024.1.31掲載)

台湾で1996年に有権者の直接投票による総統選挙が始まって8回目となった1月13日の投開票は、与党の民主進歩党(民進党)候補で、現在は副総統の頼清徳(64)が得票率40%で当選した。現職総統の蔡英文(67)は2期8年の任期を終えて5月20日に退任し、頼清徳に政権を引き継ぐ。この選挙結果がこの先、台湾、中国そして国際社会にどのような影響を与えるのか、何が起きるのか起きないのかを考える。

台湾:第三政党「民衆党」柯文哲の「次」に注目

総統選で三つ巴なったのは、日米欧に近い与党民進党と、最大野党で中国寄りの中国国民党、そして第三勢力の台湾民衆党だった。このうち、総統選に敗れた前台北市長の柯文哲(64)が率いる民衆党が今後、最も注目すべき政党だ。30歳代の台湾有権者は、地元テレビ局の世論調査で46%、20歳代は52%までもが柯文哲支持だった。

民進党に国民党という既存の二大政党が、天下国家の論争の一方で、党内の権力争いや金権政治まみれなスキャンダルを連発したことで、若い有権者の政治離れを起こした。外科医出身で台北市長を8年務めた柯文哲は得票率26%だった。だが「リアリスティックな手法で台北市の行政を前進させた」(大学2年生の李季勲が語った選挙戦の感想)と人気が高い。

民衆党は2019年に成立したばかりだが、総統選と同時に投票が行われた立法院(定数113の一院制国会)では8議席を得て、過半数に至らなかった既存二大政党に対しキャスティングボートを握った。今後は議会での発言力を通じ、若者の支持を広げることが予想される。二大政党の支持層は中高年層が大半であるため、4年後の2028年総統選では民衆党が政権を握る可能性もある。

民主主義の成熟は賞賛すべきだが、柯文哲と民衆党は国政運営の経験も人材も乏しい上、日米欧とのパイプは細い。生まれながらに民主社会に暮らす台湾の若者には理解しにくい冷酷な国際社会のパワーゲームの中で、物価対策や生活環境など目に見える内政で注目された柯文哲政権が誕生すれば、国家の存続は不透明となるだろう。

中国:口だけの武力脅威でリンゴの落下待つ習近平

台湾は自国領の一部であり、内政問題だと主張し、武力による国家統一も辞さないとする中国の習近平政権にとって、日米欧と強いパイプをもつ民進党政権の継続は痛手だ。だが頼清徳の当選は織り込み済みで、軍事脅威のみならず政治的、経済的、社会的、さらにサイバー世界など多面的な、あらゆる圧迫を台湾に強めていくことになる。

外交面では投開票の2日後、台湾が外交関係を持っていた南太平洋のナウルを奪い取った。同じく南太平洋のツバルも台湾と断交させる工作を進めている。早ければ5月には実現するだろう。ナウルを失った台湾を国家承認している国は現在12。ツバルのほか数カ国が中国の金銭外交で動いており、遠からず国家承認国は10を切る懸念がある。だが、外交攻勢は逆に、中国人民解放軍による台湾への軍事侵攻リスクを減らすことになるかもしれない。台湾の国際的地位がほとんどゼロになれば、リンゴは自然と地面に落ちてくる。需給を無視した不動産開発と処理しきれない巨額の公的、民間不良債務で中国経済が破綻懸念される中、台湾本島に侵攻などしたくないのが本音だ。

合理的に考えれば、習近平は100%成功すると踏まなければ、台湾本島に武力攻撃はしない。万一、米軍出動や日本の自衛隊による支援が始まれば、中国人民解放軍も中国経済も無傷ではいられない。このことは共産党内部の権力闘争の種となり、習近平降ろしに繋がる。台湾に脅威を与え、戦わずして勝つ孫氏の兵法こそ、最善策だ。

国際社会:選挙にらむバイデンの対中接近は吉か凶か

2024年の最大のカギは11月の米大統領選だ。バイデンの民主党政権は昨年秋以来、対米接近する習近平の中国と関係改善を急いでいる。大統領選の時期、中国をテコに経済状況を急回復させ、これを再選エンジンにしたい思いがあるためだが、「民主党そのものがチャイナマネーに操られている」(米政治学者エルドリッヂ)というリスクが強まる。

これは両刃の剣だ。対中輸出、対中投資がかつてのような利益を生むかどうか。不動産業界の破綻と地方政府の債務不履行が雪崩のように起きれば、中国発のリーマンショックが米国を、国際社会を襲う。共産党政権が国内経済を強制的に抑えても、顕在化は時間の問題だ。大統領選挙前か後か。米中再接近は一か八かの賭けに近い。

対する共和党のトランプは破竹の勢いで党内予備選を勝ち抜いている。複数の裁判を抱えているとは言え、トランプが大統領に返り咲けば、対中政策は逆戻り。同時に台湾に対する国防上の支援と、台湾が高い優位性をもつ半導体産業への支援など、2025年1月の就任当初から繰り広げる。このことは日本の安全保障と経済にも直結する。

日本は地盤沈下も激しい自民党の劣化で政権運営は暗雲が立ち込めており、9月の自民党総裁選まで現在の政権が続く保証はない。日米韓が安全保障で一応のタッグを組んでいるが、4月に行われる韓国総選挙の結果が、日米との連携強化になるか不透明だ。地震災害に航空事故で幕を開けた今年、台湾総統選で始まった国際社会の攻防はこれからだ。(敬称略)

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