連載「デザイン力で地域をPR」
スタイリッシュで洗練された自治体アンテナショップが都内に増えている。2002年にオープンした「ふくい南青山291」を皮切りに、「坐来大分」、「奈良まほろば館」など出店が相次いでいる。居心地が良く、商品の説明を聞いてゆっくり買い物ができ、厳選した地元食材の料理や地酒でもてなしてくれるレストランやバーもある。まるで地方の“迎賓館”のようだ。地域のイメージアップやブランドの醸成の役割も果たす。
店舗の空間デザインを演出するためには、建物を魅力的にするだけではなく、コンセプトに基づいて、備品、ライティング、サービスなど細部にもこだわる必要がある。特産品を扱うアンテナショップにとって悩ましいのが、店舗に並べる商品の選定だ。地元の直売所の人気の商品をそのまま展示すると、デザインの統一感を損なうこともある。
富山県は、2016年に都内2軒目となるアンテナショップ「日本橋とやま館」を日本橋三越の向いに開店した。コンセプトは、「富山の上質なライフスタイル」の提案で、暮らしにこだわり、良質なモノを好む日本橋を訪れる人たちがメインターゲットだ。館内は、物販、展示イベント、観光、飲食の4つにゾーニングされている。建物全体は県産の素材が使われており、館内には木彫刻で有名な井波彫刻の欄間など伝統的工芸品も展示されている。
物販ゾーンに入ると、統一感のとれた木調の什器を使用し、ディスプレイされた商品も周辺の雰囲気にマッチしている。ここで、目を引いたのが、「越中富山 幸のこわけ」シリーズだ。ホタルイカの浜干し、シロエビの素干し、とやまの福分け鯛(かまぼこ)などがお洒落に箱詰・包装されている。北陸新幹線の開業に向け、2009年度から開始した「越中富山お土産プロジェクト」で誕生した商品である。ロゴマークは、富山の「富」の字と「売薬箱」をモチーフにしたデザインだ。このプロジェクトには、工芸品の「技のこわけ」、今年3月には美容や癒しを意識した「美のこわけ」シリーズも立ち上がった。「こわけ」というネーミングは、富山で婚礼の際に長く用いられてきた引き出物の大きな「鯛の細工かまぼこ」を切り分けて、おすそ分けをする風習から着想してつけられている。また、女性の観光客をターゲットにしたプロジェクト「べつばら富山」というラインナップもあり、県産の菓子・工芸品・雑貨の包装やパッケージなどのブラッシュアップに取り組んでいる。 地域ブランドを総合的にデザインして、売り出すことはたいへん手間と時間がかかる。しかし、市場を把握し、次なる販売戦略を立てるには、たいへん価値のあることだと思う。
地域活性化センター 畠田千鶴
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年4月4日号掲載)
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