コラム滝沢英人社会

コロナ禍で変わる大学教育「対面」「遠隔」シナジーがカギ

 新型コロナウイルスの感染拡大を機に、大学の授業が大きく変わり始めた。「3密回避」のため、従来の「対面」に「オンライン(遠隔)」を併用した授業を多くの大学が取り入れ、それに伴い、学生生活も一変した。社会のデジタル化が進む中、両方の利点を取り入れて、いかに「教育の質」を高めていくのか。各大学の力量が問われている。

 2020年は大学もコロナ禍に翻弄(ほんろう)された。緊急事態宣言により、通学して教室で受講する「対面」授業は事実上できなくなり、各大学は春学期、授業のオンライン化を余儀なくされた。しかし、通信環境が整っていない学生がいたり、教員がデジタルの操作に不慣れで、動画・教材作りに手間取ったりして、「春先には、どうなることかと思った」(ある大学の教授)。

 秋学期が始まるころには、文部科学省は「対面」を増やすよう、大学に促した。ただ、大学は一般的に、電車通学の学生が多いなど、小中学生などに比べて行動範囲が広い。学食やクラブ活動なども「密」になりがちで、実際に複数の大学でクラスター(感染者集団)が発生した。秋に「対面」を一部再開する際は改めて感染防止対策を徹底した。教室や食堂など不特定多数の人が訪れる場所に、約5年持続するという抗ウイルス剤を塗布した大学もある。

 大学生活のもどかしさ

  この間、大学生の生活も一変した。2人の大学生の話をもとに、簡単に振り返ってみたい。

 3年生で就活中の佐藤莉子さん(仮名)。春学期はすべて「遠隔」になり、一度も登校しなかった。「対面」が一部再開した秋学期も登校は週1回。楽しみだったゼミのフィールドワークは中止。会社説明会もオンラインで、訪問はできない。

 学費は同居の親が払っているが、生活費は自分で稼いできた。しかし、野球場でやっていたビール売りのアルバイトがなくなり〝失業〟。生活のリズムも狂った。会えない友達と深夜まで携帯電話で話をして昼夜が逆転することも。「自分を律しないといけないと思った」。初冬に新しいアルバイトを始めた。

 中部地方出身で、都内の大学に合格した鈴木瑛一さん(仮名)。下宿生活を楽しみに、学生寮にいったん荷物を運び入れたものの、その直後に春学期の全面「遠隔」が決定したため、結局入居せず、実家に戻った。入学式も中止。

 「遠隔」で不満なのは必修の語学。「授業中はミュートで、発音練習もできない。英語力は高校時代より落ちた」と苦笑い。SNSを通じてサークルに入ったが、先輩とは画面越しで、リアルには会えないまま。20年12月中旬の時点で、まだ一度も登校していない。「大学生になったという実感がない」と、大学生活1年目を振り返った。

 このようにコロナ禍は大学、学生双方に大きな影響を与えた。大学はこの逆境をどう乗り越えようとしているのだろうか。肝心なのは「教育の質」の向上だ。

 「遠隔」といっても、生配信型と、オンデマンド(録画)型の2種類ある。大教室での授業を生配信型の「遠隔」にした場合、教員が画面で一方的に話し、単調になりがち。小テストを挟んだり、チャット機能で質問を受け付けたりして、双方向性を持たせながら、いかに飽きさせないかがポイントだ。オンデマンド型は退屈だと飛ばしながら視聴されてしまう。「対面」よりも授業内容が「見える化」するため、一層の工夫が必要だ。

 議論はしにくいという難点

 ゼミのような少人数型授業はどうか。3万人以上の学生が在籍する東洋大の例を見てみよう。教室では学生同士が十分距離をとるようにして、秋に「対面」を一部再開した。

 国際観光学部の森下昌美教授ゼミは約20人のゼミ生がグループに分かれて旅行商品を企画する。15回の授業のうち10回は「遠隔」だが、「(遠隔では)かんかんがくがくはやりにくい」と森下教授。その分、「対面」の日には徹底的に議論した。ハワイや沖縄での恒例のフィールドワークを、昨年は実施できなかったのが残念だった。

 一方、「遠隔」の利点も見つけた。授業時間外でも画面を通してなら学生が自主的に集まりやすく、教員もアドバイスしやすい。都合が悪い学生も「録画」機能を使えばキャッチアップできる。卒論の指導も画面上で文面を共有できるので、やりやすいという。「オンラインはやってみたら結構使える。この便利さを知ってしまったら、もう戻れない。変わっていくいいチャンス」と森下教授は前向きだ。

 多くの大学で学生向けに行ったアンケートを見ても、オンラインは「自分のペースで勉強できる」「質問しやすい」など、一定の評価を得ている。一方で森下教授も指摘したように「議論はしにくい」という難点もある。

 大学に期待されるのは知識の習得・蓄積だけではない。人と人の交流や徹底した議論、そこから生まれるアイデアや実践、人格形成こそが大事だ。オンラインだけでそれを実現するのは難しい。コロナ禍によって図らずも、大学、学生双方が「オンライン」の便利さを手に入れ、欠点にも気づいた。一方、「対面」の良さや必要性も再認識したといえる。

 東洋大の東海林克彦(しょうじ・かつひこ)副学長は「オンラインは使い方次第で、教育の質を高めるのに有効だ」と述べた上で、「コロナ禍で今、大学とは何か、大学の力が問われている」と強調した。コロナ禍2年目の2021年は、試行錯誤だった20年の経験を踏まえ、「対面」との相乗効果(シナジー)をどう高めていくか。アフターコロナも見据えた戦略に期待したい。

【筆者略歴】

日本経済新聞東京本社編集局

編集企画センター企画委員

滝沢 英人 (たきざわ・ひでひと)

1988年日本経済新聞社入社。産業部、流通経済部の記者、岐阜支局長、名古屋支社次長などを経て、2020年10月から現職 

(KyodoWeekly1月18日号から転載)