カテゴライズされない社会へ　LGBTQ「伝え手」として

「LGBTQ」などのセクシャルマイノリティは、日本では人口の約９％が存在し、日本の上位８つの姓や左利き、血液型AB型の人とほぼ同じ割合で存在している。企業や自治体では、「うちの企業にはLGBTはいない」、「公務中のカミングアウトは控えるべきだ」といった指導から、退職せざるを得なかったケースが報道されている。「多様性」を受け入れる社会になるためには、まずは近い距離に存在する当事者を知り、お互いに理解する必要がある。実際にカミングアウトした筆者が、自身の経験を語る。

カミングアウトは存在証明

　LGBTQと呼ばれる性的マイノリティーにとっては、パートナーや結婚の話題をはじめ、日常のあらゆる場面でセクシャリティー（性的指向）をカミングアウトするか、しないかについて、常に迷いながら生きている人が多い。

　私が30代後半、「自分がゲイである」と初めて周囲にカミングアウトしたのには背景があった。それは、仕事で知り合った同年代の知人が、10代の頃からゲイコミュニティーという空間で友人を得ながら自由に振る舞っている様子を目の当たりにしてきたからだった。

長らく、自身のセクシャリティを認められずに葛藤してきた身にとって、そんな彼の姿はとても羨ましく思えた。そして「人生は短いのに、いったい自分は何を恐れているのだろう？」といった怒りにも似た思いがこみ上げると同時に、信頼できる人と関連の話題になった時には打ち明けよう、という一つの選択肢から、まずは２人の妹と近しい友人数名に話した。

関係が終わってしまうのではないか、というおびえのような思いを長らく抱いてきたが、「もっと早く言ってくれたらよかったのに」、「あなたへの見方は変わらないよ」との言葉によって、それはお互いの信頼のしるしへと変わった。

　一方で、カミングアウトによって心ない発言を浴びたり、本人の許可なくセクシュアリティをばらされたり、「言ったことを後悔してしまった」という結果を生むこともある。

周囲には、親から「異性と結婚しないのか？」を聞かれ続け、ごまかしたり、煩わしくなり、実家と疎遠になる当事者も少なくない。

（カミングアウトして）楽になるのは自分だけであり、「理解できない年老いた親に、悲しい思いをさせたくない。一生言わないと決心している」。そう決め込む同年代の知人もいた。

　2015年春より、「当事者である伝え手」として「LGBTQとダイバーシティ（多様性）」を広く周知する講座で、これまでの体験や心情を語っている。

誰もが参加しやすいセミナー形式で、経営者や一般向けに知ってもらうことを目的とし、性的マイノリティを差別しない「フレンドリー宣言」をする企業や団体を増やしていこう、という気運の醸成を目指している。

企業や自治体から依頼も

　これまでにも、多くの聴講者から悩みや実体験の相談を受けているほか、地元メディアにより存在を注目され、企業や自治体などから講座の依頼も多い。

あれほどふさぎ込んでいた、つい７年前までの自身は、今や想像もしていなかった巡り合わせと役割を得たことで格段に生きやすくなり、まるで「ダムが決壊」したようなインパクトを得ている。

　LGBTQといっても、それ以外の面では多数派に属することがあり、価値観や考え方もそれぞれに違う。多様性と口にするのは簡単だが、自分のなかで無自覚に刷り込まれてきた「普通」が、他人の「普通」ではない、ということを受け入れるのは、ある種の習慣づけが必要だとも感じている。

ただ、これらの取り組みを通して、家族や友人、同僚などといった身近な人に当事者がいると知った途端、「一気に自分ごとになった」という感想にも数多く触れてきた。

このような機会や理解者が増えていけば、いずれはLGBTQなどというカテゴライズも不要となるだろう。「皆それぞれ、だからどうした」という社会が近くやってくることを期待している。

（Kyodo Weekly・政経週報　2022年11月14日号掲載）

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筆者略歴

「ハーモニクス」代表、記者・編集者

浅利　圭一郎（あさり・けいいちろう）

1975年、北海道札幌市生まれ。法政大学文学部卒業後、神戸新聞社入社。販売局企画開発部での勤務後、コミュニティFMパーソナリティや雑誌編集記者、十勝毎日新聞社札幌常駐記者などを経て2021年から現職。著書に「決めごとのきまりゴト～１人１票からはじめる民主主義～」（旬報社）。

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