コラム地域高内小百合

財政難、問われる文教施設 新潟県に見る『民営化』是非論

「その地域の民度を見たければ、図書館に行ってみなさい」とも言われるように、図書館はその地域の文化行政のレベルを知るための鏡のような存在でもある。

 新潟県は「行財政改革行動計画」の一環として、県が直接運営する県立図書館などの七つの文教施設について、指定管理者制度の導入を視野に「民営化」の是非を検討中だ。財政難の背景には2004年の中越地震、07年の中越沖地震など大規模自然災害が相次いだこともある。文教予算は命に直結せずやむを得ないという意見がある一方で、質の低下を懸念する声も聞こえてくる。

 新潟県の財政事情は厳しさを増している。県の試算では22年度にも実質公債費比率が18%を超え、借金をするのに国の許可が必要となる起債許可団体に転落すると見込まれている。現在、都道府県で起債許可団体に指定されているのは北海道しかない。

 相次ぐ自然災害に対応するため、国による肩代わりがない「資金手当債」を最大限に発行した「ツケ」が重くのしかかってきた形だ。このため県は財政の聖域なき見直しに取り組んでおり、文教施設にも着手した。

 対象となっているのは県立図書館、生涯学習推進センター、文書館、万代島美術館(いずれも新潟市中央区)、近代美術館、歴史博物館(いずれも長岡市)、少年自然の家(胎内市)の7施設。美術館、博物館、自然の家は入場料や利用料の徴収が可能だが、図書館などは利用料徴収ができない点が決定的に異なる。

 「営利目的ではない施設の民営化に民間が積極的になれるのか」と、新潟県の図書館の未来を考える会の会員らは疑問を呈す。

 近隣他県との差がくっきり

図書館予算で大きいのは人件費や資料費である。現状でも数字はかなり厳しい。一例として資料費を見てみよう。21年度では3171万円で、20年度比で13%余りの減額だ。北信越では21年度は富山県が4156万円、石川県が3749万円、福井県が4468万円、長野県が3633万円を計上している。

前年度比で長野県は5%ほどの減額だが、ほかの3県は同水準を確保している。県民1人あたりで計算すると新潟は福井の4分の1となり、開きは一層拡大する。

 状況改善に経費削減の切り札ではと持ち出されたのが指定管理者制度だ。公共施設の管理に民間ノウハウを活用しながら市民サービス向上と経費削減を図ることを目的として、03年の地方自治法改正により導入された。

 だが、日本図書館協会が20年3月に公表した調査結果では、都道府県立図書館で同制度を導入しているのは7施設だけだ。しかも岩手県立図書館を除けば、管理的業務を中心とする部分的な導入にとどまる。

 その岩手県立図書館の総括責任者を務めた司書の菊池敏雄さんは、新潟県立図書館で30年以上も専門職員として勤務していた経歴の持ち主だ。菊池さんは「館長は行政職で、司書は専門職。武士階級で言う、上士と下士のようなイメージ」を抱いていたと話し、指定管理者制度はむしろ専門職が現場をリードしやすいよさがあることを指摘する。

サービスの質の確保なるか

これに対しある図書館職員は「経費削減ありきがはっきりしている民営化で、知識や経験が豊富で積極的な司書が集められるのか」と、人材確保や育成の面から懸念を抱く。

 県立図書館は市町村立図書館への情報提供、県に関する資料の収集・保管・活用の要でもあり、市町村立図書館には「新型コロナウイルス対策に関し、いち早く県内外の図書館の対応をまとめて情報提供してもらえた。指定管理者制度になっていても同様に即応してもらえただろうか」と不安の声もある。

 この制度については10年に総務省が、公共サービスの水準確保という点から「単なる価格競争入札とは異なるものである」などの留意点を、都道府県議会議長や知事らに文書で通知した経緯もある。

 図書館は図書館法に国民の教育と文化の発展に寄与することを目的に設置・運営することがうたわれている社会教育施設だ。指定管理者制度がなじむのか、導入による利点がどれほどかは慎重な見極めが必要だろう。自然災害にも起因する財政難が発端のこの問題は、他の自治体でも起こる可能性があろう。指定管理者制度自体の検証と併せ、今後さらに議論が深まることを期待したい。

筆者略歴

新潟日報 論説編集委員

高内 小百合(たかうち・さゆり) 

新潟県出身。1988年、新潟日報入社。上越支社報道部を経て本社報道部で地場産業、農政などを担当。96年に三条支局。98年、本社学芸部で文化、環境問題などを担当。報道部デスクを経て2012年、東京支社報道部デスク。本社文化担当デスクなどを経て18年4月から現職。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年11月8日号掲載)

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