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中国の対日関係悪化に潜む2つの政治問題

東京国際大学 国際関係学部 教授 河崎眞澄

不動産経済Focus & Research 2025.7.23掲載)

抗日気運に至るまでの中国の動き

 自民党の高市早苗総裁が2025 年10 月21日に衆参両院の本会議で首相に指名され、憲政史上初めて女性が日本政治のリーダーとなる「高市政権」が発足してわずか1カ月の間に、日中関係はさらなる悪化のスパイラルに入った。「台湾有事」に関する高市首相の国会答弁をめぐり、中国の大阪総領事の発言を皮切りに中国外務省が辛辣な高市批判や日本批判を繰り返し、中国国内の世論に「抗日」気運が横溢している。

 中国側の批判は今後も継続して強硬さを増し、少なくとも2027 年秋に行われる次期中国共産党大会まで収束の兆しはまず現れない、と考えられる。大きく分けて2 つの政治問題が中国内部に潜んでいるからだ。中国共産党がタカ派とみなす高市首相の登場を契機に、鬱積している中国内部の矛盾や問題を「抗日」によって打開する戦術だ。この内部問題に触れる前に、11月15 日までに発生した動きを整理したい。

10 月31 日 高市首相と習近平国家主席が韓国で初の首脳会談=APEC の場を借り
11 月1日 高市首相と台湾APEC 代表の林信義氏(頼清徳総統の特使)が会談
11 月7 日 高市首相、台湾有事発生なら「(日本の)存立危機事態」=衆院予算委
11 月8日 中国の大阪総領事、「(高市の)汚い首をちゅうちょなく斬る」=X 投稿
11 月10 日 米国のグラス駐日大使、「(斬る投稿に)日本国民を脅迫し本性を露呈」
11 月13 日 中国外務省、高市答弁撤回要求、「全ての結果を日本が負う」=会見で
11 月13 日 中国外務次官、日本の中国大使を呼び出し「14 億人が許さぬ」と抗議
11 月14 日 中国国防省「人民解放軍に打ちのめされ惨憺たる代償を払う」=会見
11 月14 日 中国外務省、中国人の日本渡航自粛呼びかけ、在日中国人にも注意喚起

こうした中国による対日姿勢のエスカレートぶりは過去にも、小泉純一郎首相や安倍晋三首相による靖国神社参拝など、歴史問題をからめて何度か繰り返されてきた。ただ中国の官製メディアは、自民党で高市氏が総裁に選出された時期から、「女安倍」などと非礼な呼称を掲げ、安倍政権の政策継承に並々ならぬ警戒感を示してきた。その中で台湾は中国の領土であり内政問題だ、との中国の一方的な主張を、高市首相が国会答弁で踏みにじったと曲解して激高し、まさにグラス大使が言う「本性を露呈」した。

中国の常套手段 外堀から攻める

 国際社会には到底理解されぬ中国のこうした言動だが、中国の内部に潜む問題が根源にある。まず「対トランプ対策」だ。政治経済など広範囲で困難な対米戦略を中国側が有利に運ぶためには、米国の同盟国であり、米軍基地を擁する日本を徹底的に叩く戦術をとったと考えられる。万一「台湾有事」が勃発した場合、地政学的に日本の果たすべき役割は重大だ。中国では古来、権力者の失脚を狙ったり、隣国との戦いを進めたりする場合、権力者の側近や敵国の友好国を先に失脚、攻撃するのが常套手段だ。

 韓国を訪れたトランプ大統領と習近平国家主席の10 月30 日の首脳会談で、トランプは習近平を「偉大な指導者だ」などと持ち上げつつ、電気自動車(EV)用の電池などIT 製品に欠かせないレアアース(希少金属)の中国からの輸出規制を緩和させた。

 中国にとって最重要の輸出先である米国のトランプ政権が、中国製品への高関税政策を武器に取引( ディール) で成功したことが見て取れるが、中国側は実際、トランプ政権に「脅し」は効かないことを思い知らされた。さらに政治問題では、トランプ政権の基本政策である「拒否戦略( 中国の覇権を拒否する) 」の打開法として、日本を突破口にする中国の戦術が見え隠れする。拒否戦略はコルビー国防次官が唱えたトランプ政権の基本政策で、中国の覇権主義を抑え込まねば米国や日本、民主主義国の国益が侵され死活的問題になるとの考えだ。 逆に中国には米国の「拒否戦略」こそ死活問題になる。

 対米直接対決を避ける一方、「高市答弁」を起点に台湾問題で徹底的に日本を敵視して日本政府や世論の分断、動揺を招いて日米同盟の脆弱化を図る戦術と考えられる。

 第二は習近平国家主席の権力基盤だ。政府や軍などすべての権力を一人が握り独裁体制を構築した習近平政権が実際、弱体化しはじめている。経済悪化を背景に人民の不満も暴発寸前で、あらゆる国内矛盾を振り払うため
には「日本叩き」が切り札になる。

 需給バランスを考慮しない「計画経済」型の政策がいよいよ破綻に近づいた。不動産では、実需に基づかない投機目的を煽った過度な住宅建設で市況は悪化の一途だ。2015 年前後まで活況を呈した不動産売買で財を成した都市部の中間層以上は、現在でも生活水準を維持しているが、波に乗り遅れた中国人はなお貧困、やっと手にした住宅が未完成のまま放置され、ローン支払いだけがのしかかる負債地獄に陥った。総延長4万km に達する高速鉄道網の8建設運営費をめぐる膨大な負債も中国財政を脅かす。

習近平総書記4期目を狙う「2027 年問題」控え

 こうした問題に対し、中国共産党内部、とりわけエリート集団の共産主義青年団( 共青団) 出身者からの習近平独裁体制への隠然たる不満は暴発寸前だ。経済政策に長けていた共青団出身者の李克強前首相を事実上、失脚させたうえ、首相退任後も軟禁状態に置き、68 歳の若さで2023 年に突然の心臓病との理由で死
去させた背景に、習近平指導部の意向があったとの見方も、共青団を中心に広がった。習近平派とされる閣僚や人民解放軍の上層部で、汚職などを理由に相次ぎ更迭が続いているのは、習近平と直接対峙する前段階として、独裁終焉のための迂回戦術だと判断することもできる。

 このように習近平政権には、対米外交、内政不安が難題としてのしかかっている。ここで14億人の人民を扇動して「抗日」を盛り上げる戦術は、習近平政権にとって「2027 年問題」と関係する。2027 年8月1日は中国人民解放軍の創軍100 年に当たる。この年の10 月または11月には、総書記ら最高指導部の人事を決定する5年に一度の中国共産党大会が予定されている。総書記の任期として2期10 年という内規を破り、2012 年から総書記を続ける現在3期目の習近平が、2027 年に4期目を迎えることができるかどうか。創軍100 年までに中華民族が悲
願とする「台湾統一」に向けて、何らかの具体的な功績、軍功が得られるかどうかにかかっている。

危機感に乏しい日本人への警告

 この時期に「台湾有事は日本の有事、日米同盟の有事」と唱えた安倍晋三元首相の遺志を継いだ高市首相が防衛費増大や日米同盟の強化、スパイ防止法の制定など日本の国益を追求した政策を強力に推し進めることに、習
近平とその側近は神経を鋭く尖らせている。中国人の日本渡航の自粛、在日中国人に警戒を呼びかけるという事態は、極めて異様だ。これは駐在員やその家族、留学生など、少なくとも10 万人に上る中国在留の日本人に危機が迫ってきたことと同義だ。中国への安易なビジネス出張や観光旅行がどれほどリスクを伴うものか。危機感に乏しい日本人への警告でもある。

 国益と国民の生命財産の保全を最優先させる高市政権の政策に、なんの瑕疵もなく国外から内政干渉される理由もない。国際法や国際秩序を無視する国家とどう向き合っていくのか。曖昧な媚中外交を続けた岸田、石破両政権の負の遺産がいま、反動として高市政権にのしかかる。2027 年の前半までに発生するかもしれぬ緊迫した情勢に、日本の世論を分断させてはならない。高市政権が一定の勢力に崩壊される日が来れば、台湾を含め、国家としての日本崩壊の日が遠からず訪れることは、疑う余地もない。(一部敬称略)

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