コロナ禍、関西経済に暗雲 25年の万博を糧に施策を
新型コロナウイルス禍で関西経済に暗雲が垂れこめている。感染力の強い変異ウイルスが猛威をふるう中、昨年末に復調しかけた個人消費は、今年に入って緊急事態宣言の発令、まん延防止等重点措置が繰り返されたことで、再び冷え込んだ。中国の景気回復の恩恵を受けていた輸出もやや伸び悩んでいる。関西経済は厳しい局面に立たされている。
「大幅な業績悪化を受けて、店舗を半分以上閉鎖するとともに、大規模な希望退職の募集に踏み切った」
日本銀行が4月に公表した地域経済報告(さくらリポート)で、大阪や京都のサービス業者からはこんな悲痛の声が飛び出した。
大阪では、昨春に続く2度目の緊急事態宣言(1月中旬~2月末)が終了し、まん延防止措置も適用されていなかった3月の百貨店売上高は前年同月比31・5%増の565億円と18カ月ぶりのプラスに転じた。
京都も18カ月ぶりのプラス(24・8%増)、神戸も5カ月ぶりのプラス(34・9%増)と、18カ月ぶりのプラスだった東京の18・5%増より伸び率が大きかった。
ところが、4月25日に3度目の緊急事態宣言が発令され、大阪府が商業施設の休業を要請したことで、百貨店各社は窮地に陥った。
4月の大阪の百貨店売上高は前年同月比約2・8倍と大幅に伸びたが、昨年4月は初の緊急事態宣言を受けて臨時休業した百貨店が多く、その反動が大きかったからだ。
しかし、今年5月は食品や化粧品などの「生活必需品」を除き、ほぼ休業を余儀なくされたため、大阪市内の主要百貨店6店のうち5店が前年同月と比べ10~30%台の減収となった。
消費減2800億円も
りそな総合研究所は、3度目の緊急事態宣言が6月20日まで再延長されたことを受け、関西2府4県の消費額の落ち込みが2800億円程度まで広がると試算する。
一方、大阪税関が毎月公表する近畿圏貿易概況によると、輸出額は昨年10月に前年同月比2・3%増と8カ月ぶりのプラスに転じた。全国の輸出額がプラス圏に戻ったのは12月だ。
コロナ発生源とされる中国の2021年1~3月期の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除く実質で前年同期比18・3%増と急回復。四半期の統計がある1992年以降で過去最高の伸びを記録した。
関西の対中国輸出は輸出額全体の4分の1を超える。これに対し、全国の対中国輸出は輸出額全体の2割強にとどまり、「関西は他地域よりも中国の景気回復の恩恵を受けやすかった」(専門家)とみられる。
ただ、今年に入って欧米の景気も急回復したことで、自動車産業が集積する関東や中部の輸出額も伸び、関西の強みは薄まりつつある。
実際、4月の関西の輸出額は前年同月比24・5%増だったのに対し、全国の輸出額は38・0%増。伸び率は全国の方が大きくなってきた。
テレワークになじまない
変異ウイルスは、職場内感染も多いとされる。このため、政府は、企業に対し在宅勤務などテレワークの推進で、出勤者数を7割削減するよう求めているが、日本生産性本部が4月に実施した調査によると、テレワーク実施率は東京都が41・7%に達する一方、大阪府は18・6%にとどまり、関西の遅れが浮き彫りになった。
関西はITなど情報通信業が少なく、テレワークになじまない中小の製造業が多いためとみられるが、通勤者が減らなければ、感染者を抑制できない可能性がある。
2025年の大阪・関西万博では、コロナ禍を反映して「非接触・非対面」「自動化・無人化」などの最先端技術がお披露目される見通しだ。
当然、関西に根を張るモノづくり中小企業の「技術の粋」が集められる。その膝元にもかかわらず、テレワーク実施率があまりにも低いのではないか。
関西経済連合会などは、テレワークの徹底を呼びかけている。コロナを現状維持でやり過ごそうとするのではなく、こうした最先端技術を自ら開発し、「うちの技術であれば、割安で気軽に在宅勤務できます」と積極的にPRするような元気な企業がどんどん出てきてほしい。コロナ禍のような逆境や万博を糧に、関西で新ビジネスを生み出そうとする気概が求められている。
【筆者略歴】
産経新聞大阪経済部長
藤原 章裕 (ふじわら・あきひろ)
愛媛県出身。1994年、産経新聞社入社。大阪経済部で電機、財界、エネルギー、製薬、繊維業界などを担当。東京経済本部でエネルギー、金融などを担当し2016~20年、経済本部次長。20年10月から現職
(KyodoWeekly6月14日号から転載)