コラムジェンダーピックアップ大湾奈緒

女性活躍、「目に見える形」で 英国の取り組みがヒントに

鉄の女、サッチャー元首相に代表されるように、英国では政治・経済で女性活躍が日本以上に進んでいる。2021年3月、世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数」では、英国が23位と、120位の日本を大きく上回った。しかし、首位争いをしている北欧諸国には及ばず、官民挙げてさらなる女性活躍に力を注いでいる。日本における女性活躍社会へのヒントになることも多い、英国の取り組みを紹介する。

男女平等は当然

 駐日英国大使館に勤めて感じることは、何事も「男女平等は当然」という文化があることだ。日本に着任している外交官の数も、大使・公使を含め約半数が女性となっている。


 結婚したての5年前、同僚に新婚生活はどうかと聞かれた際、「夫のために夕飯の献立を考えるのが大変よ」と答えたことがある。驚いたのが、日本人と英国人でリアクションが異なっていたことだ。日本人は「幸せそうね」と返す人が多かったのに対し、英国人は「それは本当にいけないね。あなたも同じように仕事も持っているのだから、どちらか1人がやるべきではないし、今すぐに話し合いをした方があなたのためよ」と返ってきた。


 知らず知らずのうち、自分にも「料理は女性がするもの」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があることに気づいた出来事だった。


 子育てにおいても、英国と日本では男女の関わり方が異なる。


 ある英国政府関係者も参加する重要な会議で、登壇予定だった英国人の男性スピーカーが「子どもが熱を出した」ことを理由に、当日になって会議を欠席したことがある。


 日本人の私は「男性が子育てを理由に欠席するなんて!」と驚いたが、英国人の同僚らは「仕方がないわね。熱を出したら保育園が預かってくれないものね」と理解している様子だった。日本でも「イクメン」という言葉を使って男性の育児休暇取得を推奨する動きがあるが、本当に男性の育休取得率を向上させるには、職場の上司や同僚の寛容な心が何よりも大切だと感じる。


 もっとも、英国も課題がないわけではない。


 企業の経営者クラスでは、依然として男性がトップを務めるケースが多いのが実情だ。英国大型株350(FTSE350)の上場企業の取締役に占める女性の割合は、2020年で35・6%と、3割台にとどまる。上場企業の女性役員比率1割前後の日本と比べると先を行くが、まだ男女半々にはいたっていない状況だ。

日本にも波及

 そこで、英国では官民挙げてさまざまな女性活躍の取り組みが行われている。


 代表例が、主要な上場企業の女性役員比率30%を目指す民間の活動「30%クラブ」だ。2010年に英国で創設され、上場企業の最高経営責任者(CEO)や社長・会長クラスが参加し、勉強会などを通じて女性役員を増やす啓蒙(けいも う)活動を行っている。


 この活動の結果、FTSE100に属する上場企業の女性役員比率は2010年の12 ・5%から、2018年には30%へ上昇した。目標を達成したため、活動はFTSE350に対象を広げ、350でも2019年に目標を達成した。現在は、2023年までに50%を目指している。


 この取り組みは日本にも波及し、2019年に「30%クラブジャパン」が創設された。


 2030年までに東証株価指数(TOPIX)100に属する上場企業の女性役員比率30%(2020年は12・9%)を目標に掲げる。プロ経営者で知られる資生堂の魚谷雅彦社長らが参加し、英国で成果を上げているだけに、今後の活動の成果が注目される。

40%以上

 政府機関も動く。英国の金融当局の金融行為監督機構(FCA)は、7月末に上場企業の取締役の40%以上を女性とすることを求める新たな指針案を示した。早ければ2022年から適用される可能性がある。


 強制ではないが、未達だとレピュテーションリスク(評判の低下)が生じる恐れがあり、企業は真剣に向き合わざるをえないだろう。


 金融市場はグローバルにつながり、こうした動きは早晩、日本にも波及してくることが予想される。今から日本の政財界も、女性活躍を「目に見える形」で実現する社会の構築に向け、実りある議論をする必要があるだろう。

【筆者略歴】

大湾 奈緒 (おおわん・なお)
駐日英国大使館 スコットランド国際開発庁・上席投資商務官

1983年、東京都出身。英国ボーディングスクール、米国ジョージタウン大学を経て、筑波大学大学院保健学修士。駐日英国大使館にて貿易投資の仕事に就き、17年目を迎える。夫は医師。4歳2歳0歳の子を持つワーキングマザー。

(Kyodo Weekly・政経週報 2021年9月13日号掲載)

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