村田浩子自動車

自動車メーカー、死活問題になるか COP26の「宣言」の意味

2021年秋、国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)が開催された。自動車関連で注目を集めたのが、40年までを目標とした、23カ国によるガソリン車販売打ち切り宣言だ。中でも、電気自動車(EV)など内燃機関を搭載しない車両に限定する方針は、ハイブリッド技術に強みを持つ日系企業にとって死活問題になりかねない一方、国際市場での競争力の確保に繋がる一面も見えてくる。

主要国は合意せず、不発感も

 COP26が開催された英国グラスゴーは、産業革命時に石炭採掘で栄えた歴史を持つ。英ボリス・ジョンソン首相はこの地で石炭火力の廃止を訴えることで、議長国として旧時代産業からの別離を世界に印象付けようとした。ただ、中国やインドの抵抗で、最終的には石炭火力は「段階的廃止」から「段階的削減」へと合意文書の文言が書き換えられ、各国が足並みを揃える難しさが改めて浮き彫りとなる結果だった。

 英国が交渉外での成果としてもう一つ力を入れていたのが、内燃機関車の販売停止宣言だ。先進国が35年までに、新興国は40年までに、ハイブリッド車(HV)を含む内燃機関車の販売を取りやめ、EVや燃料電池車(FCV)といったゼロエミッション車(ZEV)に切り替えるという宣言で、議長国の英国を含む23カ国が合意した。

 メルセデス・ベンツやボルボ・カーズなどEVシフトを明言している大手自動車メーカーも同宣言に賛同を表明した。一方、電動車の選択肢にHVを残す日本は「完全EVというコミットメントには参加しない」(萩生田光一経済産業相)とし見送った。日系自動車メーカーも同様だ。

 トヨタ自動車を始め、HVを主力製品に位置付ける自動車メーカーが多い日本にとっては、この宣言は自動車産業の屋台骨を揺るがしかねない。実際、グローバルでの日本メーカーの求心力の低下を懸念する報道も少なくなかった。

 ただ、詳細を追っていくと、全容は少し違うようだ。まず宣言に同意した23カ国の内訳だが、カナダやデンマーク、ニュージーランドなどが名を連ねる一方、世界1、2位の自動車市場を持つ米中、主要自動車メーカーを抱える日本、ドイツ、フランスなどは加わっていない。自動車産業でイニシアチブを握る国々が不在の中、同宣言の賛同国だけで国際的な自動車政策をリードするのは難しい。また、この宣言はあくまで「目指すべき目標」であり、未達時でも罰則などは課せられない。つまり、法的な拘束力が一切無い宣言なのだ。

 そもそもEV主流派と言われている欧州勢でさえ、40年までにHVなど内燃機関車の販売禁止を明言している主要国は、フランスと英国だけであり、ドイツは30年にEV、FCVで最大1千万台市場を創出する目標を掲げるが、内燃機関車の方針に関しては言及していない。日米中も30~35年ごろまではHVが新車販売の一定シェアを占めると見ている。各国で電動車施策の取り組みに大きく差がある中での同宣言は、COPでの成果にこだわった英国の勇み足だったとの見方が強い。

PHVに商機あり

 一方で前進した領域もある。COP26に並行して開催された「ZEV移行閣僚級会合」では、ZEVの普及に向けた22年度の取り組み方針が掲げられ、日米や欧州の主要国を含む17か国・地域がこれに賛同した。充電インフラの整備や二酸化炭素(CO2)排出のルール作りといった協調領域を明確にした行動指針が示された。

 ここで特に強調したいのは、対象車種をEV、FCVに絞らず、プラグインハイブリッド車(PHV)も盛り込んだことだ。PHVはエンジンを併用する分、性能や実用性が高い。トヨタ自動車は「ジオフェンス」と呼ばれる技術を使い、特定地域内をEVとして走る技術を開発した。これまで日系メーカーが長年培ってきた内燃機関技術の応用が期待でき、国際市場での競争力の確保に繋がる。当面の現実解としてPHVの可能性が示されたことは、日本にとっては大きな成果と言える。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年1月10日号掲載)

筆者略歴

日刊自動車新聞社 記者

村田浩子(むらた・ひろこ)

2013年、日刊自動車新聞社入社。これまで自動車流通、大手サプライヤー、省庁の取材を担当。1989年生まれ。

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